2012年度11月研究例会 (第112回オペラ研究会)

第1部:書籍出版に向けた相互査読(研究員・会員向け)

第2部:研究発表

グノーのオペラ《ファウスト》における「マルグリット」像 ―宗教性と世俗性の表現をめぐって

◇発表者:関野さとみ
◇日時:2012年11月17日(土)14:00-18:00頃
◇会場:早稲田大学 早稲田キャンパス 8号館 308教室
◇言語:日本語

第2部概要

《ファウスト》は、グノーがオペラの劇と音楽書法の両方において「宗教性」と「世俗性」を巧みに結びつけることに成功した初期の例であり、グノーのオペラ創作の1つの転換点を示している。発表では、このオペラにおける「聖(宗教性)」と「俗(世俗性)」の要素をテクスト、音楽素材、登場人物の観点から分析し、またそれらの要素がどのような方法で結びつけられているのか、「マルグリット」の女性表象を中心に考察が行われた。《ファウスト》におけるマルグリットは、単にオペラ的な「悲劇の女性」として強調されるのでなく、聖俗を併せ持つ多様な女性像(貞淑な処女/穢れた女/聖女など)を示し、それが音楽表現に反映されることで、このオペラの中で「聖」と「俗」が共存し響き合う上での媒介として機能していることが指摘された。


開催記録

2部構成
参加者:12名

質疑応答

質疑では、特に発表者による「世俗性」の定義とメフィストフェレスの解釈について意見が多く出された。具体的には「俗」と「悪魔」の定義の違い、宗教的存在としての「悪魔」の捉え方、また「宗教的か否か」という二分法を超えたメフィストフェレスの解釈をめぐる指摘であったが、それに対し発表者からは、マルグリット、ファウスト、メフィストフェレスの三者の布置とその関係性の複雑さを、引き続き緻密に考察していきたいとの回答があった。また《ファウスト》によるフランス国内でのグノーの評価に関して質問が出されたが、これについては発表者から当時の劇場の上演記録が示され、《ファウスト》を契機にグノーが名声を確立した経緯が補足説明された。