2012年度10月研究例会 (第111回オペラ研究会)

第1部:書籍出版に向けた相互査読(研究員・会員向け)

第2部:研究発表

ワーグナーの反ユダヤ主義と作中人物との関係について —解釈の歴史的変遷と問題点

◇発表者:北川千香子
◇日時:2012年10月27日(土)14:00-18:00頃
◇会場:早稲田大学 早稲田キャンパス 9号館 5階 第1会議室
◇言語:日本語

第2部概要

ワーグナーのクンドリー像は「永遠のユダヤ人アハスヴェル」を下敷きにしており、そこには宗教上、道徳上の文脈で西洋の歴史に深く根ざす反ユダヤ観が認められる。第二次大戦終戦以前までは、クンドリーのユダヤ性はもっぱらこの文脈の中で言及されている。しかし、ホロコースト後、とりわけ1970年前後から、19世紀後半に急激に強まった人種論的な反ユダヤ主義(反セム主義)、ワーグナーの人種論、ナチスのイデオロギーと、クンドリーの身体的、動態的、言語的特徴に見られる他者性、セクシャリティ、死と救済の問題が関連付けられるようになる。

こうした解釈には、作者の著作や発言を文脈から切り離し、同様に文脈から切り離されたクンドリーのある一面を結び付けるものが多く見られる。また、クンドリーのユダヤ性を強調しようとするあまり特定の側面を先鋭化し、その結果、人物像を歪曲する傾向も認められるなど、クンドリーをユダヤ人カリカチュアとしての類型化する見方の問題点について論じた。


開催記録

2部構成
参加者:19名

質疑応答

クンドリーの身体的特徴の属性はユダヤ人よりもむしろジプシーにあるのではないかとの補足があった。ワーグナーの反ユダヤ主義が19世紀後半の西洋でどのように位置づけられていたのかという質問を受け、ドイツ以外の西洋諸国やロシアでもユダヤ人迫害や反セム主義が過激化し、ワーグナーの反ユダヤ主義はその背景の中で捉えられなければならないことを確認した。また、非キリスト教徒として欧米人の反ユダヤ主義を本質的に理解することの限界について意見が出された。