2012年度12月研究例会 (第113回オペラ研究会)

第1部:書籍出版に向けた相互査読(研究員・会員向け)

第2部:研究発表

女性と革命 ―ロルツィングのオペラ《レギーナ》について―

◇発表者:長谷川悦朗
◇日時:2012年12月8日(土)14:00-18:00
◇会場:早稲田大学 早稲田キャンパス 9号館 303教室
◇言語:日本語

第2部概要

オペラ《レギーナ》(1848年成立)はロルツィングが同時代に進行していた1848年3月革命という時事的出来事を題材に台本と楽曲の両方を創作した点で、彼が残した十数編のオペラ作品群という範疇にとどまらず、広く19世紀のオペラ作品という枠組においても特異な存在である。現実の革命の帰趨が決着していない時点で完成されたオペラにおいては革命勢力が優勢を保った状態で幕切れとなるが、あわや大惨事という窮地を救うのは受動的姿勢から一転して能動的行動に出るレギーナという女性である。彼女の自己解放には、男性原理のもとで破綻しかけた「革命」が女性原理の覚醒によって成功に導かれる道筋を読み取ることができるかのように思われる。しかしまた、筋展開の中で二度にわたって使用される松明と同様に、劇中の「革命」にも二面性という観点を適用することが可能であり、本作品は革命が肯定でも否定でもある両面価値を内包していることを認識させる。


開催記録

2部構成
参加者:11名

質疑応答

作中の男性原理と女性原理について、それが「複数性」に該当するかどうかの質問があった。男性の主要人物は複数者が相互に異なる価値意識を一貫して体現しているのに対して、女性の主要人物はレギーナのみであるものの彼女が結末近くに変貌を遂げることは発表において指摘されたが、それを「複数性」として処理するためには慎重な扱いが必要であることが回答された。また、ロルツィングの没後約一世紀半後にようやく原作者の意図が反映された「初演」が実現した理由を尋ねる質問に対しては、台本作家兼作曲家の創作中に廃止されていた検閲が作品完成とほぼ同時に復活したことが最大の理由であるが、その後も「革命」が一旦成功するという筋書きが歴代の政治体制のもとで危険視されたと推測されることが別の理由であろうという回答であった。