2016年度4月研究例会 (第147回オペラ研究会)

English follows Japanese

研究発表

ジョゼフ・ロージーのオペラ映画《ドン・ジョヴァンニ》におけるパッラーディオ建築

◇発表者:荻野静男
◇日時:2016年4月16日(土)17:00-18:30
◇会場:早稲田大学 早稲田キャンパス 26号館 1102会議室
◇言語:日本語

概要

ロージー監督の《ドン・ジョヴァンニ》は撮影にイタリア・ヴェネト地方のパッラーディオ建築をロケ地として使用することにより、作品の内容を豊かなものにしている。オペラハウスの舞台上に実際の建築物を持ち込むことは不可能である。しかしオペラ映画の場合は、ロケ撮影によって建築物におけるオペラ上演が可能となる。16世紀ヴェネツィア貴族のヴィラはヴェネト地方に多数存在するが、なかでもヴィチェンツァ旧市街のテアトロ・オリンピコ、郊外のラ・ロトンダ(ドン・ジョヴァンニの家)、ヴィラ・エーモ(ドンナ・エルヴィーラの家)、ヴィラ・カルドーニョ(ドンナ・アンナの家)などがこの映画において効果的に使用されている。それによって、この映画はヴェネト地方の伝統を強く感じさせるものとなっている。またその出身である台本作者ダ・ポンテを連想させることにもなっている。そして本映画における主人公ドン・ジョヴァンニがスペインのセヴィリヤの貴族ではなく、ヴェネツィアの色事師カサノヴァを模していることも、ロケ撮影によってより鮮明に打ち出されている。そして美学的見地から観れば、映画に映し出されるパッラーディオ建築内部の多様な絵画も、この映画の美的効果をいや増している。

それは建築物の美しい外観や庭ならびに周囲の風景とあいまって、ヴェネト地方ならではの美を本映画に付与しているように見える。また本映画では時代の転換期にあったルネサンス・イタリアが、同じく時代の転換期にあった18世紀後半のヨーロッパに重ね合わされ、変動期にある社会の病的兆候がえぐり出されてもいる。

発表者プロフィール

専門は芸術学。現在の主たる研究テーマはオペラ映画である。2014年度よりこのテーマに関する研究のため科学研究費挑戦的萌芽研究の助成を受ける。2016年3月オペラ映画《ドン・ジョヴァンニ》のロケ地調査のため、ヴェネチアならびにヴェネト地方を訪問。早稲田大学政治経済学術院教授。

※プロフィールは発表当時のものです


開催記録

参加者:24名

質疑応答(一部紹介)

このオペラ映画の劇場公開は1979年であるが、その時期のオペラ映画製作状況に関する質問がいくつかあった。70 年代のオペラ映画として著名なのはベルイマンの《魔笛》で、これにより当時のパリ・オペラ座音楽監督リーバーマンが本《ドン・ジョヴァンニ》の構想を抱くこととなった。また本オペラ映画の後には、同様にライモンディ主演の映画《カルメン》が F.ロージ監督により撮られる。その他活発な質疑応答があった。


Presentation

Palladian Architecture in the Opera Film Don Giovanni by Joseph Losey

◇Presenter: OGINO Shizuo
◇Time and Date: April 16 2016 (Sat.) 17:00-18:30
◇Venue: Meeting Room 1102 in the 22th bldg., Waseda (Waseda Campus)
◇Language: Japanese

Abstract

The content of the opera film Don Giovanni by Joseph Losey is greatly enriched by filming on location among the Palladian architecture of Veneto, Italy. It is, of course, impossible to bring real architecture onto the stage of an opera house. But in the case of an opera film, it is certainly possible to perform an opera work among real architecture by filming the performance on location. There still exist many villas possessed by Venetian nobles from the 16th century in Veneto. In this opera film, the Teatro Olimpico of the old city of Vicenza, La Rotonda, in its suburb (as the house of Don Giovanni), Villa Emo (as that of Donna Elvira), Villa Caldogno (as that of Donna Anna), among others, are used to great effect. This opera film succeeds, by the use of these villas, in emphasizing the old traditions of Veneto. It can also associate us with the librettist of this opera, Da Ponte, from the city of Ceneda, in the Venetian Republic. Furthermore, it is clearly revealed to us through the location of the filming in Veneto that the protagonist of this film is not based on the original model of Don Giovanni from the Spanish city of Seville, but rather on the Venetian lady-killer Casanova.

From the aesthetic point of view, the pictorial art in the interiors of the Palladia buildings shown in this art film increases the overall aesthetic effect. They seem to impart the special beauty of Veneto to this film. Furthermore, the historically transitional period of Renaissance Italy is compared to that of the second half of the 18th century in Europe. Losey’s Don Giovanni film brings the morbid symptoms of the changing society of those times to light.

Profile of  Presenter

Professor, Waseda University

*As at the date of meeting


Meeting Report

There were 24 participants.