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研究発表
観る音楽――ヴェルディのオペラにおける視覚性――
概要
本発表は、ヴェルディのオペラ(メロドランマ)の分析に、新たな視点と方法を提示することを目的とした。その視点とは、音楽の『視覚性』である。従来の分析に顕著な、動機や和声といった個々のパラメーターや、詩と音楽の整合性では、ヴェルディのオペラを説明することは難しい。ヴェルディは作曲時、あるいは台本作成時から舞台上演を具体的にイメージしていたと考えられる。
発表者は、『視覚性』という視点を取り入れることで、音楽が抽象的というよりは、具体的な何かを指示することを示した。そのため、音楽をパラメーターごとに分解するのではなく、それぞれが組み合わされた総合体として、『①現実の音・運動の模倣』、『②登場人物の移動・身振り』、『③感情表出』に三分類する。また、視覚的な意味をもたず、単に調子を整えるために置かれた音楽は、隣り合う音楽を繋ぐ触媒の役割を担う。
これらの分類項は、実際には組み合わされたり重ねられたりすることで、複雑な様相を呈し、音楽の担い手である主体の焦点化や変化を導く。発表者は《リゴレット》第1幕第13場以降を例に取り上げ、上記の分類がどのように機能し、聴衆の焦点を導くかを例示した。また、《シモン・ボッカネグラ》プロローゴ冒頭において、初演版(1857)と改訂版(1881)の差異が、分類項の利用の仕方の違いであることを示した。これらの例において、物語と舞台状況と音楽のいずれかが、あるべき定型の組み合わせから外れた一種の『反語』として表されており、ヴェルディは相反する組み合わせがドラマにとって欠かせないと考えていたことが窺い知れる。
開催記録
質疑応答(一部紹介)
発表者が提示した分析方法について、ヴェルディの音楽がもつドラマを明らかにすることにある程度有効である一方、『反語』といった用語が適切か考慮する必要があるという指摘があった。また、この分析方法の適用範囲についても議論がなされた。