2018年度2月研究例会(第178回オペラ研究会)

研究発表

ワーグナー『ニーベルングの指環』における為政者像の変遷

◇発表者:加藤恵哉
◇日時:2019年2月2日(土)16:30-18:00
◇会場:早稲田大学 早稲田キャンパス 3号館 701教室
◇言語:日本語

概要

リヒャルト・ワーグナーの『ニーベルングの指環』に登場する神々の長ヴォータンが、契約で定められた労働の代価を不正に得た金品で支払う、自分で定めた掟に囚われ自由に行動できないなどの近代社会における為政者(Herrscher)の負の面を批判的に描き出していることはたびたび指摘される。ここで興味深いのは、ヴォータンは当初からそのように批判的な描かれ方をされていたわけではないという点である。当初の散文稿ではヴォータンはあくまでも世界の理想的な統治者であり、犯してしまった不正も英雄ジークフリートの犠牲により帳消しになっていた。改稿により、ヴォータンは世界を統治すべき為政者から、不正を暴き出され没落する者へ変化したのである。

本発表ではまず、当初の構想と改稿後の完成稿、それぞれのヴォータンがどのような意図で上述のような描かれ方になったのか、またどのような段階を経てこの変化が起こったかに着目する。その上で、生涯を通じて社会に対して批判的な視線を向けていたワーグナーがどのような背景の下で、社会批判の集大成ともいえる『指環』を完成させたか、その中で為政者とその支配体制がどのように表現されているかを明らかにする。

発表者プロフィール

上智大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ文学)満期退学。現在博士論文を執筆中。専門は、近現代ドイツ文化研究(文学・音楽)。主要論文に、「ワーグナー『恋愛禁制』における社会批判――ハインゼ『アルディンゲロと幸福な島々』への共感と「ピューリタン的偽善」への反感」(『上智ヨーロッパ研究』第9号、2016年)。現在、東海大学非常勤講師。早稲田大学オペラ/音楽劇研究所招聘研究員。

※プロフィールは発表当時のものです


開催記録

参加者:14名

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