報告
プッチーニ《ラ・ボエーム》(オペラ彩 12月公演)をめぐって
発表内容と報告
第一部:イントロダクション「オペラ史のなかの《ラ・ボエーム》―受容と後世の評価―」
《ラ・ボエーム》(1896)は、《トスカ》(1900)、《蝶々夫人》(1904)とともに、プッチーニの黄金時代を飾る傑作の一つであるが、トリノにおける初演はあまり評価されず、評論家に「音楽における組織化の欠落」「形式的な非一貫性」などと書かれた。というのも、前年にヴァーグナーの《神々の黄昏》初演があり、それと比較されてしまったのである。その後、《ラ・ボエーム》は世界中で大成功を収めることになるが、オペラ史における「進化」あるいは「改革」の問題において、光を当てられることはほとんどなかった。しかし先行研究によると、現在では《ラ・ボエーム》の音楽面における新しさ、自然主義オペラあるいはトラジ・コメディ(悲喜劇)としての意義が評価されつつある。例えば音楽面では、ヴァーグナー風のライトモティーフが維持された上で、普通の会話の速度が上手く保たれているところに独自性が見られる。また台本面では、主人公ミミの悲劇だけでなく、喜劇的な場面を含めたパリのリアルな「日常生活」に焦点が当たっており、ヴェルディの《椿姫》とは大きく異なっている。例えば、第2幕のムゼッタの場面は、まさにコンメディア・デッラルテの伝統を引き継いだ喜劇的場面として注目に値する。現在のところ、プッチーニの先行研究はそれほど多くはない。しかしそれらを紐解いてみると、様々な視点が存在していることは明らかで、今後の発展が望まれる。
第二部:《ラ・ボエーム》制作の現場から
和光市のオペラ団体「オペラ彩」が2016年12月10日、11日に行う《ラ・ボエーム》上演(第33回定期公演、和光市民文化センター サンアゼリア大ホール)に向けて、制作の現場に関わるプロデューサーの立場から様々な話題を提供。稽古場でのエピソードや歌手へのインタビュー、プロデューサーから見た各キャストの特色など、現場の声を届けた。また稽古場見学会をはじめとする周知活動についても言及し、今後のオペラ普及のための問題提起も行った。
発表者プロフィール
- 森佳子
- 日本大学他非常勤講師、早稲田大学オペラ/音楽劇研究所招聘研究員。博士(文学)。フランスを中心としたオペラ、音楽劇の研究を行う。主な著書に『笑うオペラ』『クラシックと日本人』(共に青弓社)、『オッフェンバックと大衆芸術―パリジャンが愛した夢幻オペレッタ』(早稲田大学出版部)などがある。
- 和田タカ子
- 特定非営利活動法人オペラ彩理事長、声楽家、プロデューサー。1984年、朝霞オペラ振興会(現 オペラ彩)を創設、自主制作によるオペラを32年間連続上演して今日に至る。全日本オペラネットワーク運営委員長。プロデュース作品の受賞歴:佐川吉男音楽賞奨励賞(トゥーランドット)、三菱UFJ信託音楽賞奨励賞(ナブッコ)、三菱UFJ信託音楽賞(マリア・ストゥアルダ)
※プロフィールは発表当時のものです