第1部:研究発表 (16:25-17:55)
オペラにおける舞曲 ―アルバン・ベルクの《ヴォツェック》と《ルル》からの考察―
第2部:オペラ/音楽劇のキーワーズ 第3回 (18:00-18:30)
「日本の作曲家によるオペラ作品史」
概要[第1部]
なぜ多くのオペラには舞踊の場面があるのか。オペラにおいて舞曲は、どのような機能を果たし得るのか。本発表はアルバン・ベルクの2つのオペラを、舞曲という角度から捉え直そうとするものである。
オペラ史に目を向けると、モーツァルトの《ドン・ジョヴァンニ》におけるメヌエットとコントルダンスとドイツ舞曲、またシュトラウスの《ばらの騎士》における「オックス男爵のワルツ」の事例から、舞曲は社会的階層、さらには国や地域、時代と結び付いたものであり、そのことによってオペラに台詞からは語り得ない、新たな意味がもたらされていることが確認される。
《ヴォツェック》の2幕4場ではレントラーとワルツが、「酒場の楽団」と名付けられた民俗的なアンサンブルによって、しかしながら交響曲のスケルツォ楽章として高度に組織化されてあらわれる。その構造にはシューベルトやマーラー、またはベルク自身が述べたように、シューマンが意識されている。
一方《ルル》には、1920年代のヨーロッパで流行したジャズが取り入れられている。ここで注意しなければならないのは、当時ジャズとは、主にアメリカから輸入された「新しい社交ダンスの音楽」を指す用語であり、ベルクはバレーゼルの著作やシュルホフのピアノ曲などを通してジャズを学習した。その成果のひとつが《ルル》であって、1幕3場ではラグタイムとイングリッシュ・ワルツ(ウィーン風とは異なるスロー・ワルツのこと)が、「ジャズバンド」によって、メロドラマの音楽として演奏される。
《ヴォツェック》は無調、《ルル》は12音技法による芸術音楽であるなかで、これらの舞曲は伝統的な民俗音楽や流行のポピュラー音楽との接点となり、ベルクのオペラのある種の「わかりやすさ」、あるいはアクチュアリティーを保証するものとなっている。
開催記録
質疑応答(一部紹介)
ヴァーグナーやドヴォルザーク、シュトラウスなど、様々なオペラにおける舞踊の場面が検証された。また《ルル》におけるジャズの使用は、ヒンデミットやクルシェネクと比較しても遅れたものであり、同時代性よりもむしろそのずれのなかに意義があるのではないかとの指摘があり、活発な議論が展開された。