2013年度1月研究例会 (第125回オペラ研究会)

研究発表

リチャード・ウィルの『ズーミング・イン、ゲイジング・バック:テレビで見る《ドン・ジョヴァンニ》』について

◇発表者:荻野静男
◇日時:2014年1月11日(土)16:30-18:00
◇会場:早稲田大学 早稲田キャンパス 9号館 5階 大会議室
◇言語:日本語

概要

《ドン・ジョヴァンニ》のテレビ放映はこれまで詳細に検証されてきたわけではない。2011年に発表されたリチャード・ウィルの論文『ズーミング・イン、ゲイジング・バック: テレビで視る《ドン・ジョヴァンニ》』は従来の研究と比べ、より広範囲にこの対象を調べ、固定観念に囚われずにその検証を行っている。

ウィルの考察対象はNetherlands Operaで上演された《ドン・ジョヴァンニ》(2006)である。その舞台演出は原作を1960年代に移し替えると同時に、テレビ放映を最初から意識している。本論は舞台監督Wieler/Morabitoやテレビ監督Vermeirenの意向を、その演出から読み取ろうと試みる。

従来テレビ放送のオペラは舞台上演の可能な限り忠実な再現にすぎないと考えられてきた。しかしウィルはそのような見解を否定し、むしろテレビ放送のオペラにはそれ独特の長所があり、時間・主観性・パーフォーマンス・視覚性といった領域でテレビ監督独自の手腕が発揮されているとする。例えば、クローズアップやズーム・イン等のカメラワークは、登場人物の内面性をより深く掘り下げることができる。また視聴者はカメラという光学機器を通して歌劇場の舞台に接しているので、音楽ジャンルのオペラはよりヴィジュアルなものへと変容する。そこにオペラのアイデンティティへの問いや、視聴者の側からのオペラへの新しい接し方がある。


開催記録

参加者:17名

質疑応答(一部紹介)

本研究がアメリカにおける映像論の反映ではないかとする説が出された。また時間の問題との関連で、本テレビ放送が《ドン・ジョヴァンニ》の原作のいくつかの部分を省略していることや、巧妙なカメラワークによる時間の流れのスピード調節が行われていること等が指摘され、活発な議論が展開された。