研究発表
明治期伝統演劇界のオペラ理解 ──雑誌『能楽』『歌舞伎』のオペラ紹介記事を中心に
◇発表者:伊藤由紀
◇日時:2013年2月2日(土)16:30-18:00
◇会場:早稲田大学 早稲田キャンパス 9号館 5階 第一会議室
◇言語:日本語
概要
本発表は明治30年代後半の日本で、オペラは能や歌舞伎のようなものとする言説が散見されることに注目し、当の伝統演劇界のオペラへの反応を、専門誌『能楽』『歌舞伎』の記事を通じて確認した。『能楽』の論客の多くは、能はそのまま保存すべきという立場で、オペラの事例はその主張を補強する目的で利用されている。一方『歌舞伎』の論客らは、オペラを含めた世界の演劇に広く目を向け、それらの特徴を積極的に取り入れようとしている。両誌はともに、日本の伝統演劇の戯曲を西洋のそれと比較して、前者には3人称視点からの語りが含まれると指摘していた。これを受けて、発表の最後に「初の国産オペラ」とされる北村季晴『露営の夢』(オペラとしての初演は明治38年)を取り上げた。「叙事唱歌」として書かれ、3人称視点からの語りを含むこの作品が容易に舞台化された背景には、伝統演劇の影響があったことを指摘した。
開催記録
参加者:18名
質疑応答
『能楽』『歌舞伎』の論客の多くは愛好家であり実施者ではないことを確認した上で、実施者のオペラへの反応について質問を受けた。発表者からは、歌舞伎俳優や舞踊家のオペラへの興味を窺わせるいくつかの記事を紹介した。両誌いずれにも寄稿していた坪内逍遙の立場について問われると、能に基づく「新楽劇」の創出を提唱する逍遥の立場が『能楽』では異質であったことを回答した。また、能が保存、歌舞伎が改革に傾きがちなのは、近代以前からの傾向ではないかとの指摘もあった。