研究発表
日露友好の懸け橋としてオペラがもたらす効果――オペラ《光太夫》を題材として
概要
本発表ではオペラがもたらすソフトパワーの威力についてオペラを題材に検証してみた。外交上ハードパワーを行使することが許されない日本にとって切り札となるのはソフトパワーに頼ることである。特に外交上重要な時期である日露関係において、両国の懸け橋となる題材がオペラに隠されていることはあまり知られていない。オペラ《光太夫》について解説する。アゼルバイジャン出身ファルハンク・フセイノフ(1948-2010)作曲によるオペラ《光太夫》は江戸時代の蘭学者、桂川甫周(1826-1881)文献「北瑳聞略」に記録された当時の日本とロシア交流の壮大な記録にインスピレーションを受けた声楽家青木英子(1919-2010)により日本初の全編ロシア語で制作されたオペラである。主人公大黒屋光太夫が漂流苦難の末女帝エカテリーナ二世の勅許で帰国する物語は日露友好の懸け橋ともいえる内容となっている。これまで日本人を題材としたオペラで二国間の友情を題材をとしたものはなく、まさにこのオペラは日露両国のソフトパワー源泉の一つでもある交流を題材としたものである。我が国では 2006 年観光立国推進基本法が成立、その前文では観光は国民生活の安定を象徴するものであり、国際相互理解を増進するものと記されている。観光立国の目的は経済効果ばかりではなく文化・芸術によるソフトパワーの発揮であり、このオペラはその素材として新たな観光資源の構築にもつながり、ロシア人へのおもてなしのメッセージでもある。また 2018 年に日本政府が「ロシアにおける日本年」と題しロシア各地で、文化等のイベントを検討する中、発表者はこのオペラも検討課題として提案する予定である。
発表者プロフィール
1948年生まれ。1972年日本航空入社、労務部、総務部、客室企画部、マドリード支店等勤務後、鈴鹿国際大学(現鈴鹿大学)人間科学部教授、和歌山大学観光学部特任教授を経て2015年より同大客員教授(現在)。オペラ「光太夫」制作者青木英子を助け構成・脚本の一部を担当した。
※プロフィールは発表当時のものです
開催記録
質疑応答
上演が日本国内のみにとどまった経緯について質問があった。もともとは現地上演を視野に創作されたがソ連崩壊に伴う混乱の影響で実現しなかった。しかし、オペラが大衆的人気ジャンルのロシアで、全編がロシア語で書かれ日本文化の諸相が随所に織り込まれている本作品を上演することは日露間の相互理解と関係強化に直結する。現地初演が切望される。