2013年度6月研究例会 (第119回オペラ研究会)

研究発表

ヴェルディ・オペラとは何か? ― 受容・評価・解釈をめぐる諸相と変転のダイナミズム

◇発表者:丸本隆
◇日時:2013年6月8日(土)16:40頃-
◇会場:早稲田大学 早稲田キャンパス 8号館 404会議室
◇言語:日本語

概要

オペラ研究は20世紀中盤まで未熟な状態にあった。1960年前後、まず楽譜など一次資料の校訂が本格的に開始され、さらに80年代、旧来の学問体系の枠組みを超えた種々の方法論が台頭する中で、英米独伊を中心にオペラ研究が全面的に開花し、以来目覚ましい発展を遂げながら今日にいたっている。

一方日本では、そうした国際的潮流に乗った学術研究が今なお本格化せず、それが一般読者のオペラ理解にも影響している。オペラの代表格のヴェルディの場合ですら、それは例外でない。

たとえば《ナブッコ》初演の事情に関して、従来の言説が後代の「創作」だとする主張が実証的に展開されるのは90年代だが、日本ではほとんどの一般書に、今なお伝統的な「神話」が無批判に取り入れられている。一部の著作が新解釈を視野に入れているのは評価できるが、逆にヴェルディのリソルジメントとの関わりの軽視など、新説の弱点とも思える一面的傾向をそのまま継承し、その後その妥当性をめぐって多くの研究者が展開してきた論争や、提示された多様な解釈の可能性をフォローしていない点に問題が残る。

日本のヴェルディ論がこうした状況に甘んじている原因は、何よりもその基盤を支えるべき学術研究の遅れにあり、その点における一大転換が望まれる。


開催記録

参加者:23名

質疑応答

具体例として詳述した《ナブッコ》を中心に、ヴェルディの政治的コミットメントの問題を解く上で重要な鍵を握る暗喩的表現、検閲、台本のあり方、さらに研究の土台となる当時の新聞の利用の可能性等に関して質疑応答が交わされた。書簡が遺族の意向で公表されないなど、とりわけ研究進展の障害となっている一次資料の問題をめぐり、議論が盛り上りをみせた。