2012年度5月研究例会 (第108回オペラ研究会)

第1部:書籍出版に向けた相互査読(研究員・会員向け)

第2部:研究発表

世紀転換期ハンガリーにおける象徴主義オペラの諸相

◇発表者:岡本佳子
◇日時:2012年5月26日(土)14:00-18:00
◇会場:早稲田大学 早稲田キャンパス 8号館 303会議室
◇言語:日本語

第2部概要

発表では、世紀転換期ハンガリーにおける文学と演劇の運動を概観しつつ、その影響がオペラにどのように現れているのかという問題意識のもと、ハンガリーでもあまり知られていない作品、アーブラーニ・エミル二世のオペラ《モンナ・ヴァンナ》(1907年)が紹介された。

20世紀初頭のハンガリーではモダニズムが盛んであり、その文学運動には象徴主義の受容も含まれていたが、メーテルランクの演劇作品については象徴主義の代表的な詩文学よりも早い段階で受容されていた。彼の作品を基にしたオペラ《モンナ・ヴァンナ》は、当時の王立歌劇場で盛んに制作されていたハンガリー語オペラである。演劇集団ターリア協会の会員でもあったアーブラーニ・エミル一世がリブレットを書いており、バレエなどの場面が挿入されつつもかなり忠実にオペラ化されていた。ハンガリーにおける、象徴主義運動のひとつの受容としてみなすことができるのではないかとの結びが提示された。


開催記録

2部構成
参加者:18名

質疑応答

『モンナ・ヴァンナ』はラフマニノフもオペラ作曲を試みたが、メーテルランクとの権利関係で頓挫した経緯があるという。それに関して参加者から、アーブラーニ・エミル二世のオペラの場合は上演もされたようだが、その点問題はなかったのかという質問がなされた。それに対し発表者から、これまで調べた限りでは、おそらく許可を得ずに制作されたものではないかと考えているという回答があった。

また「象徴主義オペラ」の定義についても質問があった。すなわち今回の発表で、この用語をタイトルに使っている理由が、単に《モンナ・ヴァンナ》がメーテルランクの作品を扱っているからなのか、あるいはアーブラーニの音楽にそうした表現的要素が見られるのか、という疑問である。それに関して発表者から、今回については前者の理由が大きいため、音楽に関する調査の必要性はあるという答えがあった。しかしこの作品には音源がないため、今後は入手した譜面から分析をおこなっていきたいという抱負が述べられた。